ÿþ Journey
     
旅行記
ドイツ紀行
 
   





第1章 踊る夜

そして、ドイツの夜更けは遅かった。
8~9時ぐらいになっても、外はまだ明るい。
到着前に少々、雨は降った模様だが、今は少し雲の掛かった晴れ。
見慣れた感のある太陽が顔を出していた。
だが、私の頭の中は、けっして明るくはなかった。
フランクフルトからカッセルまでの鉄道の行き方が、よく分からない。
事前にネットで調べた時はかなり簡単そうなルートに見えたが、実際に見ると、かなり複雑である。
それに、ドイツ語がさっぱり読めないので、路線図を見ても、どこで何にどの様に乗れば良いのか、イマイチよく分からない。
それでも何とか少ない脳みそを結集して、空港から乗って3回乗り継ぎをすれば目的地に着くのかなと、ぼんやりと推測できた。
しかし・・・しかしである、ここからが長かった。
列車の乗ると、想像していた以上に、べらぼ~に時間が掛かる。
ドイツってこんなに広かったんだ。
そして、3回目の乗り継ぎをする駅に11時到着、その日はもう列車がないことを知る。
カッセルはなかなかの田舎町らしい・・・
東京の、12時半終電の感覚に私は慣れ過ぎていた。
今夜泊まるホテルの予約もしていたのに・・・
こんなホームしかない田舎の駅で独り、呆然と立ち尽している。
6月にしては寒いし・・・気温は13~15℃ぐらい?
嗚呼、何故に私はこうもダメなんだろう。
またか・・・とまあ、こんなことは以前から何回かあった。
だが、落ち込んでいるヒマはない。
次の始発の列車が、5時ぐらい。
6時間ほどの時間を、思わぬ形で与えられたと思えば良いじゃないか。

仕事関係の出張で海外に行くときは、空港に迎えが来て、そのままホテルに直行する。
ホテルに到着し、荷物を降ろしてからはすぐに移動、職務を済ませたら、移動し、食事を取る。
ホテルに戻って睡眠を取ると、また次の日の早朝に移動用のタクシーが外に待っている・・・と、要するに、“スキマ”がまったく無いのだ。
だが、このドイツ訪問では、幸か不幸か、いきなり6時間もの“スキマ”ができたのである。

しかし、与えられたこの時間、いったいどう使えば良いのか。
まず、寝るのは却下。
毛布も何も無い。
凍え死ぬことは無いが、確実に風邪を引くだろう。
わざわざドイツまで来て風邪を引くのはアカンだろう。
何をするにしても、健康であることが絶対条件だ。

取り敢えず、改札も何もない駅を出て、建物の陰に移動する。
灯りは、小さい街灯がひとつ。
正直、あまり明るくない・・・というか、あまり明るいと目立ってしまう。
こんな右も左も分からない異国で独り・・・目立つのは、宜しくない。
かと言って、体を動かさないと寒い。
歩くか?
しかし、目的地もなく、馴染みない土地でふらふら歩くのは危険・・・しかも深夜。
危ない人達から強盗されるのはごめんだ。
そうなると、やはり、この薄暗い場所に留まる方が良い。
場所を移動しないで動く・・・となると、必然的に“踊る”しかない。

元々、人生なんて与えられた舞台の様なもの。
誰しも生まれたその時から、踊る権利を有している。
それに、ドイツの11時は、日本の朝7時。
これから1日が始まるんだ。
見上げてみれば、夜空が美しい。
これも、どこかで見た光景だ。

異なる、初めての土地で馴染みのあるモノを見ると、心が安心する。
太陽、星、そしてマクドナルド。
仮に、初めて人類が火星に足を踏み入れたとする。
そこでマクドナルドの看板を目にしたら安心・・・というより、むしろ関心するだろう。
マグトナルドでもマクドナレドでもない、地球人には御馴染みのマクドナルドだ。
現地の外観を損ねるとか、特色が薄くなる、情緒が無いという反対意見があるのも事実。
だが、火星だろうと水星であろうと、店舗を建てると決めたら建てる!!
・・・そのマックの勇気に賞賛を贈りたい。
反対云々は、実際、火星人の最終判断に委ねる。

話が少々、横に逸れてしまった。

イヤホンを耳に付けると、静かなビートが聞こえる。
足先を動かす。首を打つ。
音が空気を彩る。
手を開いては、指差す。
腕を曲げる、そして、回す。
光の当たらない舞台。
場を支配する、力強いビート。
囲む演奏者。重なる音。
儚くも、情熱的な声。
なんという存在感。
なんて楽しそうなんだ。
私は、只、乗るだけ。
幾度と重なる波動に身を任す。
世界が確立される。
まるで、この場に皆が居る錯覚。
煌びやかな皆が。
自由な世界。
至福の時間。
意思に合わせて身体を動かせる、その幸せ。
全てが全て、自分の思い通りには行かない。
だからこそ、一時的にでも世界と意思疎通できた時、
想い、憂い続けた結果、信じるものを手に入れた時、
初めて自分の中で価値が生じる。
これだけ沢山の人々が訴え続けているではないか。

薄暗闇の中の踊り。
とても人に見せれたものじゃないが、身体はけっこう温まる。
そうこう踊っているうちに、色々なことが頭をよぎる。

以前、同じ様なことがあった時の自分と、今の自分とを対比させる。
何が変わって、何がそのままか?
意識に違いは?
信念は同じか?
あれから何年経った?
道は真っ直ぐか?
ここまで来れたのは・・・と考えると、自然と色々な事に対して、感謝の気持ちが出てくる。

お世話になった人々。
家族。
心を許せる親友。
美しい友達。
世界を彩る華と、それらに見とれる人々。
澄んだ瞳。
澄んだ空気。
鮮やかな自然の色。
街を作った開拓者。
心を揺らす音。
生命の神秘。
数えきれない真摯な想い。
ハッとする衝撃。
回る世界。
公平に与えられた時間。
2度と来ない、今日という日。

・・・気がついたら、6時間はあっという間に過ぎていた。

第2章に続く









 
 

絵本 1
紀行 1
紀行 2
インタビュー1
インタビュー2
インタビュー3
インタビュー4
インタビュー5
宣言 1

 
 
 
   
   
 

All Images andVideos © 2009-2059 Scoop Brancis Co.